選挙の供託金、なぜこんなに高い?没収ラインと返還条件を完全解説
国政選挙や知事選、地方議会選挙が行われるたびに、ニュースを賑わすのが立候補者の顔ぶれとともに話題に上る「供託金(きょうたくきん)」の存在です。日本において選挙へ立候補するためには、法務局へあらかじめ多額の現金を預け入れなければならず、その額は主要先進国の中でも際立って高額な水準に設定されています。
「なぜこれほど高額な資金が必要なのか」「一定の票を取れなければ没収されるというのは本当か」といった疑問を抱く有権者や出馬検討者は少なくありません。本記事では、国政から地方議会までの最新金額一覧、没収ラインの厳密な計算方法、司法判断や国際比較、さらには制度が抱える構造的課題に至るまで、現場の取材視点から徹底的に解剖します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:衆院選・参院選の選挙区は300万円、比例代表は600万円と、日本の供託金額は先進国の中で群を抜いて高額である。
- 要点2:有効投票総数の一定割合(衆院小選挙区は10%、知事選は10%など)を下回ると、預けた供託金は全額没収され国庫・自治体に帰属する。
- 要点3:売名や乱立を防ぐメリットがある一方、若者や資金力のない市民の被選挙権を制限しているとして違憲性や制度改革の議論が続いている。
【2026年最新】選挙供託金の金額一覧|衆院選・参院選から知事選・地方議員まで
公職選挙法に基づき定められている供託金の額は、選挙の種類によって大きく異なります。国政の舵取りを担う衆議院・参議院の選挙から、身近な市区町村の議会議員選挙まで、立候補に必要な金額は段階的に設定されています。
立候補者が納付する供託金は、法務局に現金または国債証券等で預託し、受領証を選挙管理委員会に届け出ることで初めて正式な立候補届出が受理される仕組みです。各選挙における具体的な金額設定と制度上の位置づけを以下の比較表にまとめました。
| 選挙区分 | 供託金額(候補者1人あたり) | 主な没収ライン(有効投票基準) | 編集部の分析・参入障壁の評価 |
|---|---|---|---|
| 衆議院選挙(小選挙区) | 300万円 | 有効投票総数の 1/10(10%) | 比例重複立候補時は計600万円が必要となり個人参入は極めて困難。 |
| 衆議院選挙(比例代表単独) | 600万円 | 獲得議席数に応じた独自計算式 | 政党要件を満たす組織力・資金力が前提の金額設計。 |
| 参議院選挙(選挙区) | 300万円 | 有効投票総数 ÷ 議員定数 × 1/8 | 定数が複数ある大都市部でも一律300万円の高額負担。 |
| 参議院選挙(比例代表) | 600万円 | 獲得議席数に応じた独自計算式 | 全国区での知名度獲得と多額の資金供出が必須。 |
| 都知事選・道府県知事選 | 300万円 | 有効投票総数の 1/10(10%) | 首都決戦では乱立防止効果と宣伝目的出馬の議論が常に交錯。 |
| 政令指定都市 市長選 | 240万円 | 有効投票総数の 1/10(10%) | 一般市と比べ規模が大きいため負担額も高めに設定。 |
| 一般市長選・特別区長選 | 100万円 | 有効投票総数の 1/10(10%) | 首長選挙として一定の責任と覚悟を求める水準。 |
| 都道府県議会議員選挙 | 60万円 | 有効投票総数 ÷ 選挙規定数 × 1/10 | 地方議員の中では比較的高額で、若手無所属の参入壁に。 |
| 市区議会議員選挙 | 30万円〜50万円 | 有効投票総数 ÷ 選挙規定数 × 1/10 | 政令市50万円、一般市・特別区30万円。町村議会は不要。 |

供託金の没収ラインと計算方法|返還される条件の境界線を徹底解説
供託金は預け金であるため、一定の得票基準をクリアすれば選挙終了後に全額返還されます。しかし、法定の得票基準に1票でも届かなかった場合、その供託金は全額没収される極めてシビアなルールが適用されます。
小選挙区・首長選挙における「10分の1」ルールの計算式
衆議院小選挙区や都道府県知事選、市区町村長選挙では、「有効投票総数の10分の1(10%)」が明確なボーダーラインです。例えば、ある選挙区で有効投票総数が20万票だった場合、返還基準は以下のようになります。
没収ライン = 有効投票総数(200,000票) × 1/10 = 20,000票
この場合、獲得票数が19,999票以下であれば300万円が全額没収され、20,000票以上を獲得して初めて300万円全額が返還されます。1票の差で数百万円の返還可否が決まるため、当落線上の争いだけでなく供託金返還ラインを巡る攻防も各陣営にとって死活問題となります。
地方議会議員選挙における定数割計算の仕組み
定数が複数存在する地方議会議員選挙(大選挙区制など)では、計算式に「選挙区の定数」が組み込まれます。
没収ライン = (有効投票総数 ÷ 定数) × 1/10
例えば有効投票総数が5万票、定数が5人の市議選の場合、50,000 ÷ 5 = 10,000票となり、その10分の1である1,000票が没収ラインとなります。定数が多い都市部の議会ほど1人あたりの必要得票数は分散される設計となっています。
なぜ日本の供託金は世界一高いのか?海外比較と高額設定の背景にある理由
日本の供託金水準は、他国と比較すると突出して高額です。イギリスでは下院選挙の供託金が500ポンド(約9万〜10万円程度)に抑えられており、フランスやドイツ、イタリア、アメリカ連邦選挙などではそもそも供託金制度自体が存在しないか、数千円〜数万円程度の登録手数料のみで立候補が可能です。
カナダでもかつて供託金制度が存在していましたが、2017年に裁判所が「市民の立候補権を不当に制限している」として違憲判決を下し、制度そのものが撤廃されました。なぜ日本だけが数百万円規模の高額供託金を維持し続けているのでしょうか。
総務省や法制上の建前としては、以下の3点が主な導入・維持の理由とされています。
- 売名・宣伝目的の乱立防止:商業的な宣伝や私的な知名度向上のみを狙った不真面目な出馬を防ぐ。
- 選挙事務の混乱回避:数十人から数百人の候補者が無秩序に乱立することで、投票用紙の肥大化や開票事務の破綻を防ぐ。
- 一定水準の民意の担保:当選の見込みが極めて薄い泡沫候補を排除し、政策論争の実効性を確保する。
しかし、現行の金額設定は昭和中期以降のインフレに伴い引き上げられた経緯があり、20代・30代の若手層や一般所得の給与生活者にとって「立候補の権利を実質的に買い取るための高額な入場券」として機能してしまっている実態は否定できません。

過去最高の没収額が記録された背景と選挙制度のメリット・デメリット
近年、国政選挙や大都市の首長選挙において、没収される供託金の総額が過去最高水準を更新するケースが相次いでいます。特に2024年の東京都知事選挙では、過去最多となる56人が立候補し、当選者および上位一部の候補を除く大多数が没収ライン(有効投票の10%)に届かず、没収総額は1億5,000万円超という記録的な規模に達しました。
没収された供託金は全額が国庫または各地方自治体の歳入として組み入れられますが、この現状に対しては制度のメリットとデメリットの両面から激しい議論が巻き起こっています。
供託金制度のメリット
- 公費で行われるポスター掲示場の設置、選挙公報の発行、政見放送などの公的コストが無制限に膨張するのを抑制できる。
- 有権者にとって候補者の絞り込みが容易になり、主要政党や有力候補間の政策比較に集中できる。
供託金制度のデメリット
- 経済的困窮層、若年層、女性、無所属市民の政治参加を制度的に締め出している。
- 既存の政党交付金を受け取る大政党所属候補に有利で、新規参入政党やインディペンデント候補に極端に不利な構造が温存される。
- 「高額な供託金を払える富裕層や組織票を持つ者」に候補者が偏り、民意の多様性が損なわれる。
違憲訴訟の判決と司法判断のリアル|法廷で争われた「被選挙権の侵害」
日本国憲法第15条第1項(公務員の選定罷免権)および第44条(議員の資格制限禁止)に反するとして、これまで複数の候補者や市民団体が高額供託金の違憲性を問う訴訟を提起してきました。
過去の最高裁判所判決において、司法は一貫して「供託金制度の目的には合理性があり、金額の決定は国会の広い立法裁量に属する」として合憲判断を維持しています。司法の判断基準としては、「過度な乱立によって生じる民主主義の機能不全を防ぐための必要最小限の制約」という論理が採用されてきました。
しかし、憲法学者や法曹関係者の中からは「現在の300万円〜600万円という額は、国民の平均年収に匹敵し、もはや立法裁量の範囲を逸脱した過度の制約である」との批判が根強く主張されています。海外の違憲判例(カナダなど)を引用しながら、金額の大幅な引き下げや、供託金に代わる「一定数の有権者による推薦署名制度」への移行を求める提言が法学会から相次いでいます。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|「供託金は税金で肩代わりされる」のウソ
選挙制度をめぐっては、インターネット上やSNSで多くの誤解が流通しています。その代表例が「国会議員や現職議員は、供託金を税金で肩代わりしてもらっている」という言説です。
これは制度上の事実無根の誤りです。供託金は現職であれ新人であれ、すべての候補者が法務局へ自己資金(または政党からの寄付金・借入金)として自腹で納付しなければなりません。
混同されやすいのが「選挙公費負担制度」です。これは、ポスター印刷費や選挙カーのレンタル料、ガソリン代、ビラ作成費などを自治体や国が一定限度額まで負担する制度ですが、これらも供託金没収ライン以上の得票を獲得しなければ公費負担の対象外となり、全額が自己負担(自腹請求)となる厳しい仕組みになっています。
つまり、得票率が没収ラインを下回った場合、候補者は「失われた供託金(数百万円)」に加え、「選挙カーやポスターなどの実費請求(数百万円)」の双方を一気に背負い込むことになり、1回の選挙で500万〜1,000万円規模の個人的な負債を抱えるリスクに直面します。
【プロの結論】政治社会学から読み解く供託金制度の功罪と立候補の判断基準
政治社会学的な視点から日本の選挙構造を分析すると、高額供託金は「地盤(組織力)・看板(知名度)・鞄(資金力)」を持つ既存勢力の寡占状態を強固に守る防壁として機能してきた側面が浮き彫りになります。資金の工面が立候補の第一関門となる構造は、世代交代の停滞や議会の固定化を招く主要因です。
こうした構造的リスクを踏まえた上で、これから選挙への挑戦を考える個人が直視すべき判断基準は明確です。
【立候補に向いている条件】
- 過去の地域活動や党派支持層から、確実に有効投票の10%以上(または議会定数基準)を獲得できる基礎票の裏付けがある。
- 万が一の供託金没収および公費負担不適用時にも、個人の生活や事業が破綻しないリスク資金の余力がある。
【立候補を慎重に再考すべき条件】
- 「名前を売りたい」「政策を一回主張してみたい」という動機のみで、事前の地上戦・後援会組織の構築が皆無である。
- 供託金を全額借入金に依存しており、没収された場合に私生活が破産に直結する。
【選挙の供託金】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:没収された供託金はどこへ行くのですか?税金の無駄遣いになりませんか?
A1:衆議院選挙や参議院選挙などの国政選挙で没収された供託金は国の一般会計(国庫)へ、知事選や市議選などの地方選挙で没収された供託金は各自治体の歳入へ組み入れられます。公費として地域の公共サービスや行政運営の財源に充当されるため、自治体にとっては純粋な収入となります。
Q2:衆議院選挙で小選挙区と比例代表に「重複立候補」した場合、供託金はいくら必要ですか?
A2:小選挙区の300万円に加え、比例代表の名簿登載分としてさらに300万円が必要となり、候補者1人につき合計600万円を納付しなければなりません。小選挙区で復活当選した場合は返還条件を満たせば戻りますが、双方で基準を下回ると全額没収されます。
Q3:供託金の支払いはクレジットカードや電子マネーでできますか?
A3:原則として現金、または国債証券や政令で定める有価証券で法務局に納めなければなりません。キャッシュレス決済には対応しておらず、立候補届出日までに指定の法務局窓口で手続きを完了させて受領証を得る必要があります。
まとめ:開かれた民主主義に向けた今後の展望と制度の見直し
日本の供託金制度は、選挙の秩序維持や売名候補の乱立抑制という一定の防波堤として機能してきた歴史があります。しかし、その金額の高さは主要国中突出しており、多様な民意の反映や次世代リーダーの育成を阻む制度的障壁となっていることも動かしがたい事実です。
民主主義の根幹である「被選挙権」をいかに万人に保障しつつ、選挙の尊厳と実効性を担保するか。有権者一人ひとりが供託金の持つ二面性を理解し、開かれた選挙制度のあり方を議論していくことが求められています。 (出典: 供託 金 選挙(Yahoo!ニュース))